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2005年08月29日
第6回 勘定科目が難しい
複式簿記の原理はわかりました。(参照:番外編 経理入門 まとめ)仕訳というお金の動きの記録を機械的に処理していくと元帳と決算書が作成され利益を知ることができる。
簡単です。
仕訳さえできれば、あとは自動的に結果が出るのですから。
それなのに、経理は難しい。なぜなのでしょうか?
それは、勘定科目が難しいからです。
実際の仕訳には勘定科目というものを使用します。
勘定科目別に元帳が作成され、決算書が作成されるのです。
ですので、勘定科目は非常に大事です。
勘定科目を辞書で引いてみると、「簿記の計算単位となる各勘定に対して与えられた名称。元帳の口座の科目。(大辞林)」とあります。
この勘定科目には、会計学上、税務上のお約束があるのですが、これが、実に難しい。
勘定科目の解説だけでたくさんの書籍が出ているくらいです。
そして、この勘定科目を知らないと仕訳はできません。
仕訳とは、借方、貸方それぞれに記載する勘定科目を決めてあげる作業だからです。
勘定科目が決まれば、それが借方か貸方かというのはそれほど難しくありません。
資産の勘定科目が増える時は借方、減る時は貸方。
負債の勘定科目が増える時は貸方、減る時は借方です。
ちなみに、青色申告で使う勘定科目は、税務署から送られてくる「青色申告決算書」にあらかじめ印刷されているものが基本になりますが、これで全部というわけではありません。足りない場合は自分で補う必要があります。
もちろん、売上とか仕入とか銀行からお金をおろすとか、日常よく行う取引は仕訳も簡単ですから、ちょっとやれば覚えられます。
でも、実際に発生する取引はいろいろです。税法も毎年変わります。
お金を払ったので費用だと思っていたら、固定資産だったり、負債の返済だったり...。
経費についても、それがどの費目になるのか悩んでしまったり...。
払ったお金の内訳がいろいろだったり...。
振り込まれた金額が売上の金額と違って、振込手数料や源泉税が引かれていたり...。
正直申しますと、会計ソフトを開発していて自分でも10年以上青色申告している私でも、「どの勘定科目を使うの?」と悩むことはしばしばです。
まぁ、難しいからこそ、簿記資格があったり、税理士や会計士がいたりするんですけどね。
でも、そんなに恐れることはありません。
私はここまでの複式簿記の原理の説明で、あえて勘定科目は使わず、資産・負債・費用・収益という用語だけを使ってきました。
勘定科目は、必ずこれら4つの分類のどれかに属します(法人の場合はこれに「資本」が加わります)。
ですので、原理を説明するだけでしたら、勘定科目を使わなくても、これで十分ですし、わかりやすくなると考えました。
みなさんも、このブログを読んで、複式簿記の原理が理解できたなら、たぶん、勘定科目や仕訳の解説書も読みこなせると思います。
是非、複式簿記で帳簿をつけて、青色申告しましょう。
でも、手作業で帳簿をつけるのは、やはり面倒です。
日々の記帳では、仕訳伝票を書き、各元帳へ転記するのですが、手作業ではミスも出ますし、修正も大変です。
そこで、会計ソフトの登場となるわけです。
仕訳データさえ入力してあれば、そこから元帳や決算書を作成するのはコンピュータの得意とするところです。
複式簿記の原理は簡単ですし、元帳や決算書の形式は全国共通ですから、会計ソフトは開発されやすいんですね。
たくさんの会計ソフトが存在する理由はここにあります。
でも、会計ソフトを買ったはいいけど、使いこなせず挫折した経験はありませんか?
私は、会社員時代、経理入門の講習会を受講した後、外資系企業向け経理システムを担当しました。
その後、フリーランスになり青色申告事業者となったわけですが、そこで一般企業向けの会計ソフトは使いにくい(というか使えない)ことに気付き、自分で自分の使いやすい会計ソフトを開発することにしたのです。
そして誕生したのが「IJssel会計」なのですが、その話はまたの機会に譲るとして、次回は、一般の会計ソフトについて考察してみたいと思います。
2005年08月25日
番外編 経理入門 まとめ
これまで、5回に渡り経理入門ということで複式簿記の原理について簡単に説明してきましたが、ここで、全体の流れをまとめておきたいと思います。
詳細につきましては、過去の記事を参照して下さい。
(1)1月1日(期首)の資産残高と負債残高は同じです。 |
(2)借方と貸方の金額が同じになるように、お金の動きを記録していきます。 このお金の動きの記録を仕訳といい、基本的にお金は貸方から借方へ移動します。 |
(3)仕訳を積み重ねると、常に借方合計と貸方合計は同じになります。 |
(4)仕訳を機械的に分類することにより、元帳が作成されます。 |
(5)元帳から、各残高(合計)を知ることができます。 |
(6)各残高(合計)をひとつにまとめると決算書が作成され、利益を知ることができます。 資産残高と負債残高をまとめたものが、貸借対照表、費用合計と収益合計をまとめたものが、損益計算書です。 |
2005年08月22日
第5回 経理入門 決算書
前回は、お金の動きの記録=仕訳を積み重ねて、機械的に分類すると元帳が作成され、残高(合計)が計算されるということをお話しました。
この残高(合計)を集計すると決算書が作成され、複式簿記の最終目的である利益を知ることができます。
前回の例では、資産、負債、費用、収益、それぞれの残高(合計)は次のようになりました。
これらの残高(合計)を一つにまとめてみましょう。
このブログの第1回 経理入門でご紹介した図と同じになったことにお気付きでしょうか。
そして、ここでも借方の合計と貸方の合計が同じになることに注目して下さい。
マジックのような不思議な気持ちになりますが、よく考えれば不思議でもなんでもなく当然の結果であることがわかります。
借方と貸方が同じ金額になるように作成した仕訳を積み重ねて、残高を求める時には、借方と貸方から同じ金額を引いているのですから、その結果は当然、借方の合計と貸方の合計が同じになるわけです。
しかし、このままでは、肝心の利益がわかりにくいので、費用と収益を利益分だけずらしてみます。
いかがですか?
収益-費用=利益となり、同時に資産-負債=利益となる様子がご理解いただけると思います。
実は、資産-負債=利益を表す(A)の部分と、収益-費用=利益を表す(B)の部分が、決算書そのものなのです。
(A)の部分を貸借対照表、(B)の部分を損益計算書と言います。
そして、(A)の貸借対照表は、1月1日(期首)に資産と負債の残高がありますから、これも一緒に記載することになっています。
また、(B)の損益計算書は、借方、貸方ではなく、収益、費用、利益の順に記載します。
この2種類の決算書によって、利益以外にもいろいろな情報を知ることができるのですが、これは専門家の解説に譲るとして、とにかく、この貸借対照表と損益計算書ができれば、青色申告ができます。
そして、「IJssel会計」は、これらの決算書を作成するためのソフトということになります。
さて、ここまで5回に渡り、経理入門ということで複式簿記の原理について簡単に説明してきました。
漠然とでもご理解いただけたでしょうか?
しかし、複式簿記の原理は理解できても、やはり経理は難しいのです。それは何故なのでしょう?
また、世の中にはそれこそたくさんの会計ソフトが存在します。でも、そのソフトを使いこなせずに挫折したという方も多いようです。挫折の原因はどこにあるのでしょうか。
次回からは、
・複式簿記の原理は簡単なのに経理が難しいのはなぜ?
・会計ソフトを使いこなせない理由は?
・難しい経理を簡単にするための「IJssel会計」の設計思想とは?
というお話に移っていきたいと思います。
2005年08月15日
第4回 経理入門 元帳
前回は、お金の動きの記録=仕訳の基本について説明しました。
では、この仕訳が積み重なるとどうなっていくのでしょうか。
簡単な例をあげて考えてみましょう。
1月1日(期首)に現金が10万円ありました。
銀行から、現金20万円を借り、手持ちの現金は30万円になりました。
商品を15万円で仕入れ、25万円で売りました。
銀行に10万円返しました。
これらの取引の仕訳(お金の動きの記録)は次のようになります。
この仕訳(お金の動きの記録)を積み重ねたのが次の図です。
ここで、資産に注目してみましょう。これにより資産の動きがわかります。
このようにまとめた帳簿を元帳と言います。
実際には、仕訳に記載されている、日付、天秤の反対側(相手科目)、摘要も記載されます。つまり、元帳は仕訳の抜粋と言い換えることもできます。
資産の元帳の代表的なものに、よくご存知の現金出納帳や銀行口座の通帳などがあります。
さらに、この元帳の借方と貸方をそれぞれ合計し、借方から貸方を引くと残高を知ることができます。
なぜ、借方から貸方を引くかと言えば、資産は借方に配置されているので、借方に残高が出るようにするためです。
この例では、最初に10万円持っていて、20万円借りて30万円となり、15万円で仕入をして15万円残り、25万円で売って40万円となり、10万円返して最終的に手元の現金は30万円となりました。
図の残高の30万円と一致してますね。
同様に、負債、費用、収益の元帳と残高(合計)も図にしてみました(下図)。
ここで、費用と収益の借方と貸方の差が残高ではなく合計となっているのは、費用と収益は期首にリセットされ、残高という概念がないためです。
この図を見ていただいてもわかるように、通常の取引では費用は借方と決まっているため、借方と貸方の差を計算するまでもなく、借方の合計が、そのまま合計となります。そこで、貸方欄を省略して、仕入帳や経費帳として帳簿を作成することも多いです。
同様に、収益では、借方欄を省略して、売上帳を作成します。
簿記は、帳簿の種類が多くて難しいと感じる方もいらっしゃると思いますが、以上のことからわかるように、売上帳も仕入帳も経費帳も、全て元帳のアレンジバージョンなのです。ここでは触れませんが売掛帳や買掛帳もそうです。
さて、仕訳を積み重ねて、機械的に分類すると元帳が作成され、残高(合計)が計算されるということがわかりました。
この残高(合計)を集計したものが決算書となっていくわけですが、これについては次回としたいと思います。
2005年08月08日
第3回 経理入門 仕訳
前回、借方と貸方は、天秤ばかりの左と右であり、天秤が吊り合うように(借方と貸方の金額が同じになるように)お金の動きを記録して積み重ねていくと、常に天秤は吊り合っている(借方と貸方が同じ)...これが複式簿記であるということを説明しました。
このお金の動きの記録のことを仕訳と呼ぶわけですが、今回は、この仕訳について説明したいと思います。
動いたお金を吊り合うように天秤に乗せてみると、下の図のようなイメージになります。
でも、これでは、どこからどこへ動いたのかわかりませんね。
実は、このお金は右(貸方)から左(借方)へ動きます。
代表的な3つのケースを図にしてみました。
まず、上の図の(a)お金を借りた場合を考えてみましょう。
例として、銀行から現金100万円を借りたとします。
この時、お金は貸方から借方へ動くので、負債から資産に動くことになります。
実際に、銀行のお金が100万円減って、自分のお金が100万円増えました。
ところが、自分を中心に考えれば、借金(=負債)は増えたと考える方が自然です。
そこで、前回の最後に書きましたように、資産と費用が左側(借方)、負債と収益が右側(貸方)に配置されていることが重要になってきます(右図)。
複式簿記では負債はマイナスの資産という意味で貸方に配置し、マイナスのマイナスでプラスにするという工夫がされているのです。
つまり、このケースでは、借方に配置されている資産が天秤の左(借方)にあるので、資産は増え、貸方に配置されている負債が天秤の右(貸方)にあるので、負債も増えるということになります。
本来、天秤の右(貸方)にある場合は右から左へ動くので減るべきところを、負債は貸方に配置されていて立場が反転するので、逆に増えると考えるわけですね。
では、(b)売上があった場合はどうでしょうか。
この時、お金は貸方から借方へ動くので、収益から資産に動くことになります。
実際に、お客さんのお金が減って、自分のお金が増えました。
そして、借方に配置されている資産が天秤の左(借方)にあるので、資産は増え、貸方に配置されている収益が天秤の右(貸方)にあるので、収益も増えます。
(c)経費を使った場合も見てみましょう。
例として、文房具店で事務用品を現金で買ったとします。
この時、お金は貸方から借方へ動くので、資産から費用に動くことになります。
実際に、自分のお金が減って、文房具店のお金が増えました。これは、現金(=資産)が事務用品(=費用)に化けたと考えてもらってもかまいません。
そして、借方に配置されている費用が天秤の左(借方)にあるので、費用は増え、同じく借方に配置されている資産が天秤の右(貸方)にあるので、資産は減ります。
どうですか?仕訳の規則が見えてきたでしょうか?
仕訳の規則...それは仕訳の借方・貸方と配置の借方・貸方が同じだったら増え、違ったら減るということです。
今はまだ、ピンとこないかもしれませんね。
ここでは、とりあえず右の資産、負債、費用、収益の配置図を覚えておくと、今後何かと役に立ちます。
さて、複式簿記では、この仕訳(お金の動きの記録)を積み重ねていく訳ですが、仕訳が積み重なるとどうなっていくのでしょうか。
この続きは次回としたいと思います。
2005年08月01日
第2回 経理入門 借方と貸方
前回、複式簿記の大事な7つの用語のうち5つについて説明しましたので、今回は、残りのわかりにくい2つ、借方と貸方について説明したいと思います。
まず最初に、天秤ばかりを想像して下さい。
この天秤の左の皿が借方であり、右の皿が貸方です。
複式簿記というのは、この天秤が吊り合うようにお金の動きを記録していくと、利益のみならず、多様な財務情報を知ることができる仕組みなのです。
ちなみに、このお金の動きの記録のことを仕訳といいます。
では、なぜ、天秤の左右の皿を借方、貸方と呼ぶのでしょうか?わかりにくいですよね。
私が受講した講習会の講師は、
「意味も理由もありません。そのまま覚えてください」
と言いました。
英語では、借方をデビット[Debit]、貸方をクレジット[Credit]と言います。
通常、クレジットと言えばクレジットカードで、これはお金を借りるのに、なぜ「貸」???
私も最初はよく混乱しました。
この辺がこの用語をわかりにくくしている原因でしょう。
[Credit]を辞書で引いてみますと、「信用貸し」と出ています。
最初に、複式簿記が日本に来た時に和訳をした人が、天秤の右の方が[Credit]と表現されているのを見て、訳すのに「信用貸し」→「貸す方」→「貸方」としたのかもしれません。
そして、反対の左の方は、「貸す」の反対で「借りる方」→「借方」です。
以上は余談ですが、大事なのは、天秤が吊り合うということで、便宜上、天秤の左を借方、天秤の右を貸方と呼ぶことにしたと考えてください。
ここで、前回の図を思い出してみましょう。
まず、どの図も、左側(借方)と右側(貸方)の高さが同じということに注目して下さい。
簡単に言うと、1月1日(期首)の天秤が吊り合っている状態(借方と貸方が同じ)から、天秤が吊り合うように(借方と貸方の金額が同じになるように)お金の動きを記録して積み重ねていくと、12月31日(期末)の天秤も吊り合う(借方と貸方が同じ)ということです。
もちろん、12月31日(期末)に限らず、いつの時点においても天秤は吊り合っているはずです。
これが、複式簿記の原理です。
複式簿記の複式とは、お金が動いた時に、天秤の左(借方)と右(貸方)、2箇所(複)に同じ金額を記録していくという意味なのです。
ここで、試しに複式簿記を英語でなんと言うのか調べてみました。double-entry bookkeepingです。ダブルで入力する簿記...そのままですね。
さらに、資産と費用が左側、負債と収益が右側にあるのは、ちゃんと意味があります。
そうです。資産と費用は借方で、負債と収益は貸方ということです。
でも、この場合の、借方と貸方は、天秤の左と右とはちょっと意味が違います。
そして、ここが複式簿記の絶妙な部分であり、「IJssel会計」の設計に大きく影響を与えたところでもあります。
これについては、次回としたいと思います。